【保育士監修】癇癪ってどうして起きるの?子どもが伝えたい理由と対応方法

子どもが癇癪(かんしゃく)を起こす場面に何度も直面すると、「また始まった…」と気持ちが沈むこともあるでしょう。しかし、癇癪は、うまく気持ちを伝えられない子どもが自分の感情を表現しようとする行動のひとつなのです。 こうした子どもの癇癪は、「思い通りにならない」「言いたいことがうまく言えない」といったもどかしさが、泣いたり怒ったりという形で表れやすいといえます。そのため、子どもの気持ちに寄り添った適切なサポートが、癇癪の軽減につながるでしょう。 そこで今回は、癇癪の心理的背景やタイプ、すぐに実践できる具体的な対処法について詳しく解説します。

子どもが起こす癇癪(かんしゃく)とは?

 

癇癪(かんしゃく)は、乳幼児期の子どもによく見られる情緒的な反応の一つだといえます。一般的に癇癪が多く見られるのは、1歳半頃から3歳頃までの「イヤイヤ期」と呼ばれる時期です。それから5歳頃をめどに、言葉の発達や感情の調整力が育つことで、癇癪の頻度や激しさは徐々に落ち着いていきます。

ここでは、さらに掘り下げて、子どもの癇癪に潜む心理的背景やタイプについて解説します。

癇癪は「コミュニケーション」のひとつ

子どもの​癇癪(かんしゃく)は、「困った行動」や「親のしつけの問題」だと捉えられがちですが、実は子どもなりの「コミュニケーション」の取り方だといえるでしょう。

乳幼児期の子どもは、言葉を使って冷静に自分の思いを説明したり、我慢して気持ちをコントロールする力がまだ乏しいといえます。そのため、自分でもうまく整理できない不快感やもどかしさを感じたときに、「泣く」「叫ぶ」「物に当たる」などの行動を通して、自分の思いを相手に伝えようとしているのです。

つまり、癇癪は「わかってくれない」「つらい」「イヤだ」といった子どもなりのサインであるともいえます。その背景には、「助けてほしい」「理解してほしい」という思いがあることも少なくありません。

癇癪を単に困った行動やわがままと捉えず、子どもの伝えきれない気持ちの理解に努めて寄り添う姿勢を持つことが大切です。

​癇癪を起こす子どもの心の中で起きていること

癇癪(かんしゃく)は、言葉や感情の発達段階にある乳幼児期の子どもにとって、精一杯の自己表現でもあります。

たとえば、大人にとっては些細に思えることでも、子どもにとっては強い不安やストレスの原因となることも少なくありません。思い通りにならない状況に直面したとき、自分の思いをどう伝えていいかわからず、気持ちがあふれてしまう際に癇癪となって現れやすいでしょう。

また、癇癪には脳の発達も大きく関係しています。

乳幼児期の子どもは「感情を生み出す」部分が活発に機能する一方で、「感情を調整する」機能は十分に育っていません。そのため、怒りや悲しみといった強い感情が起こると、それを自分の力で調整することが難しくなります。

こうして子どもの癇癪は、心の中で起きている混乱やストレス、脳の発達など、さまざまな要因から生じていくのです。

子どもによってさまざまな癇癪のタイプがある

癇癪(かんしゃく)の表れ方は、子どもによってさまざまです。

大声で泣き叫ぶ子もいれば、無言で固まったまま動かなくなる子もいます。また、物に当たるような行動として現れる場合もあるでしょう。

こうした違いは、子どもの気質や発達段階、これまでの環境や経験によって変わってきます。そのため、「他の子と違うのでは?」と不安に思う必要はありません。

さらに、環境の変化には落ち着いて対応できても、自分の思いが通らない場面で癇癪を起こす子どもや、音や光、人の多さなど、日常の些細な変化に反応して癇癪を起こす子どももいます。

つまり、癇癪とは単純な尺度では測れない、個別性の高い反応なのです。

​新米ママでもすぐにできる!癇癪の対処法3選

母に泣きつく子ども

 

子どもの癇癪(かんしゃく)は予測ができないことも多く、対応に悩みやすい場面のひとつです。そのため、いくつかの基本的なポイントを押さえておくことで、子どもの気持ちに寄り添った対応が可能になるでしょう。

ここでは、新米ママでもすぐに実践できる癇癪への対処法3選をご紹介します。

声を荒げない、手を出さない!まずは落ち着く環境づくりを

癇癪(かんしゃく)を起こしている子どもは、言葉にならない不快感や怒り、悲しさを一気に放出しているため、その場にいるだけでも相当なエネルギーを使っています。その際にママが慌てて声を張り上げたり、厳しく制止したりすると、子どもは「否定された」「理解されていない」と感じ、さらに癇癪が激しくなることにもなりかねません。

また、周囲の状況にも目を向けてみてください。人が多い場所や騒がしい空間では、子どもが余計に混乱しやすくなります。可能であれば、静かな部屋や車の中など、子どもが落ち着けるお気に入りのスペースへ移動してみましょう。それだけでも子どもの情緒が和らぎます。

移動が難しい場合は、子どもの近くで寄り添いながら、「大丈夫だよ」「ここにいるよ」とやさしく伝えるだけでも大丈夫です。こうした落ち着いたママの対応が子どもの心を優しく包み、癇癪も徐々におさまっていくでしょう。

子どもへの言葉がけは「共感」+「簡潔さ」がカギ

癇癪(かんしゃく)は、子どもがまだ言葉でうまく感情を伝えられないときに起こりやすいものです。その際には、まず「共感の言葉」を意識して使ってみてください。

たとえば「悔しかったんだね」「うまくいかなくてイヤだったよね」など、子どもの感情をそのまま言葉にするように心がけます。これだけで子どもは「気持ちをわかってもらえた」と安心し、自分の中で感情を整理しやすくなるでしょう。

さらに、言葉は「短く、やさしく」がポイントです。

癇癪中は子ども自身も頭の中が混乱しているため、長い説明や説得は耳に入りにくいでしょう。「大丈夫だよ」「落ち着いたら話そうね」といった、シンプルで肯定的な言葉をそっと伝えるだけでも効果があります。

​子どもの癇癪が落ち着いたら?スキンシップのコツ

癇癪(かんしゃく)の渦中にある子どもは、自分の感情に押し流されるような感覚に陥っているため、落ち着いたあとは、どこかぽっかりとした疲れや寂しさが残ることもあります。

感情を出し切ったあと、子ども自身も「こんなつもりじゃなかった」「ママに嫌われたかも」と、不安を感じているかもしれません。そんなときこそ、ママが優しく背中をさすったり、そっと手を握って「がんばったね」「落ち着いたね」と微笑みかけてみてください。子どもの心は癒され、安心感を持つことができるでしょう。

こうしたスキンシップは、癇癪の記憶を不安や葛藤から「受け止めてもらえた経験」へと書き換える役割も果たします。次に感情が高ぶったときも、「泣いてもママがいてくれる」という安心感が、癇癪の頻度や強さを和らげていくのです。

ママ自身も子どものぬくもりを感じながら、「今日もよく向き合えたな」と気持ちがほぐされ、子どもの癇癪を成長の過程として肯定的に受け止められるようになるでしょう。

​保育現場での「気づき」から考える子どもの癇癪

保育の現場でも、癇癪(かんしゃく)に悩む子どもと日々向き合っています。日常、子どもたちを見守っている保育士たちは、背景にあるさまざまな気づきを通して、子どもの心や発達段階、必要な支援について目を向けているのです。

ここでは、家庭での癇癪対応にも役立つ、保育士ならではの気づきや視点について解説します。

「癇癪が激しい・長引く」と感じたときに見る保育士の視点とは?

多くの子どもたちと日々向き合っていると、癇癪(かんしゃく)の強弱や持続時間には、年齢や気質だけでなく、その子なりの理由や背景があることを実感します。

特に癇癪が激しいとき、まず着目するのは「癇癪が始まるきっかけ」と「落ち着くまでの過程」です。たとえば、おもちゃを取られた瞬間にスイッチが入る子もいれば、注意されたことが引き金になるケースも。どのタイミングで癇癪が起こりやすいかを把握することは、そのきっかけとなる要因の回避や落ち着くまでの適切な支援につなげるため、最初に踏まえるべきステップであると考えています。

また、癇癪が長引くときは、「その子が気持ちを切り替える力をまだ身につけていない」という発達段階上の課題が隠れていることもあります。保育士は、子どもがどうすれば安心できるか、どんな声かけや距離感で落ち着けるかを見極めながら、少しずつ切り替える練習を日々の中で重ねているのです。

​癇癪の裏にある「安心したい」気持ちを見逃さない

​​​子どもの癇癪(かんしゃく)は、気持ちのやり場が見つからず、泣いたり叫んだりすることで心の内を放出しています。

保育士は、こうした行動を否定するのではなく、その奥にある「安心できていない理由」にも目を向けているのです。たとえば、その日の生活リズム、体調の変化、家庭での出来事、人間関係のストレスなど、癇癪の背景に潜む「不安の芽」を丁寧に探ります。

また、子どもにとって安心感とは、「自分の気持ちが伝わる」「どんな自分でも受け入れてもらえる」という実感です。そのため、癇癪の最中でも「大丈夫だよ」「そばにいるよ」といった落ち着いた言葉かけやスキンシップが大きな意味を持ちます。

すぐに気持ちが切り替わらない場合でも、保育士は子どもの内側にある「安心のスイッチ」が入るタイミングを待ちながら、寄り添う姿勢を大切にしているのです。

​もしかして発達障害?家庭と専門機関との連携も検討する

保育の現場において、「癇癪(かんしゃく)が毎日頻繁に起きる」「人や物、音などに過剰な反応を示す」などの気になる特徴が重なる場合には、専門的な視点が必要だと感じることがあります。ただし、それは診断を目的にするのではなく、その子が今、どのような困難を抱えているかを一緒に理解し、適切なサポートを検討するための気づきなのです。

必要に応じて、まずは保護者と情報を共有し、「気になることがあるので、一緒に見守っていきましょう」といった穏やかな言葉で状況を伝えるようにしています。決して一方的に「発達障害かもしれません」と断定することはありません。なぜなら、育ちのペースや行動の特徴には個人差があるため、一時的に環境の影響などで不安定になっていることもあるからです。

その上でさらに必要性が生じれば、地域の保健センターや子育て支援窓口、児童発達支援センターなどの専門機関へ相談を提案することもあるでしょう。家庭だけで抱え込むのではなく、外部の専門家と連携を取ることで、子どもにとってより適した支援につながります。

子どもに気になる様子があった場合は一人で悩まず、まずは保育士や専門機関に相談してみてください。

​子どもの癇癪と上手に向き合うために

 

癇癪(かんしゃく)の対応で最も大切なことは、子どもの気持ちを否定せず、共感を軸にした言葉かけを意識することです。少しずつでも子どもの気持ちに寄り添い、ママ自身も落ち着いた対応を心がけましょう。

ここでは、子どもの癇癪に落ち着いて向き合うための心構えについて解説します。

子どもの癇癪は成長の過程と考える

心と体が急速に発達していく幼児期において、癇癪(かんしゃく)は自然な成長の過程であると捉えましょう。子どもは泣いたり怒ったりすることで、自分の思いを外に出そうとします。これは、内面的な成長に伴って感情を調整する練習のようなものです。

こうした子どもの癇癪をマイナスの行動と決めつけるのではなく、「感情を学ぶ過程」として理解してみてください。それだけでママの心に余裕が生まれ、落ち着いた対応がしやすくなります。

また、癇癪が減っていくには、ある程度の時間も必要です。一度や二度の対応で劇的に改善することを期待しすぎず、日々の積み重ねを大切にしてください。焦らず、比べすぎず、子どもの成長に合わせて寄り添っていきましょう。

がんばりすぎない!頼れる人・場所を見つける

​子どもの癇癪(かんしゃく)に向き合う毎日は、ママにとって決して簡単なものではありません。ときには自分の感情を抑えきれず、ついイライラしたり、戸惑ったりすることもあるでしょう。

ただし、すべてを一人で抱え込まないようにしてください。

子育てにおいてもっとも大切なことは、ママ自身が心の余裕を保てること。

そのためにも「頑張らなければ」と気負いすぎず、「今の自分には少しつらいな」と感じたときに頼れる人を見つけておきましょう。保育士や身近な家族、ママ友など、話を聞いてもらえる相手がいるだけで心がふっと軽くなります。

また、ママ自身が安心して過ごせる場所があると、気持ちにも余裕が生まれます。

子どもはママがリラックスしていると、不思議と落ち着きやすくなるものです。

疲れたときにはママ自身が安心して過ごせる場所に出かけましょう。そして「今日は自分の好きな場所で思いっきりリラックスする」と自分に許可を出してください。環境の力を借りながら、肩の力を抜いて子どもと向き合うことが、今後の子育てにおいて大きな力になるでしょう。

ママの笑顔は子どもの笑顔につながる

ママの笑顔は、子どもにとって何よりの安心感につながります。なぜなら、子どもは大人が思っている以上に表情や声のトーン、しぐさから多くの情報を受け取っているからです。

たとえば、ママの顔がこわばっていたり、ピリピリとした空気を感じたりすると、それだけで子どもは「何かがおかしい」「不安だ」と感じてしまいます。実は、その不安が癇癪という形で現れることも少なくありません。

逆に、ママが優しく声をかけてくれたり、穏やかな表情で見守ってくれると、子どもは自分の気持ちが受け止められていることを感じ、「大丈夫」という安心感を得ることができるのです。

もちろん子育ては楽しいことばかりではなく、思うようにいかない日もあるでしょう。だからこそ、ママ自身が心の余裕を持てる時間や、笑顔になれる瞬間を大切にしてほしいのです。

「ママの笑顔は子どもの笑顔につながる」…この言葉を心に留めながら、リラックスして子どもと向き合っていきましょう。

まとめ

子どもが起こす癇癪(かんしゃく)には、「聞いてほしい」「わかってほしい」という心の叫びが隠されています。まずはママ自身がその背景にある気持ちに寄り添い、共感を示すことが、子どもの心を落ち着ける第一歩になるでしょう。

また、育児は思うようにいかないことの連続です。うまくいかない日があっても、決して自分を責めないでください。癇癪も、成長の過程。今は苦労に感じられても、子どもが自分らしく感情を表現し、やがて人との関係を築いていくための土台であることを実感できる日がくるでしょう。

今日の小さな一歩が、未来の大きな力につながることを信じて取り組んでくださいね。


ライター名: Masayo.M
修士(教育学)
熊本大学大学院教育学研究科 修士課程 修了
保育者として保育園をはじめ、幼稚園や認定こども園において15年以上の勤務経験があります。
子育て世代のママに向けて、笑顔や価値につながる記事執筆を心がけています。


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