【栄養士&保育士監修】母乳にいい食べ物は?授乳期に摂りたい食事・食べ方、NG例とは

赤ちゃんの栄養相談を受ける中で「母乳が出ない、出にくい」「いいおっぱいを出すための食事は?」「母乳はアレルギーになるの?」「お酒は母乳に出るの?」など、母乳に関する質問が多くよせられていました。母乳は、赤ちゃんが生まれた時に、一番初めに口にする食事です。そのためお母さんが食べ物や食生活に気をつけ、いい母乳を出すのは大切なことです。今回は、そんな母乳育児で頑張っているお母さんと赤ちゃんのために「いい食べ物」や「NGな食事」などを栄養士と保育士の資格を持つ松下が、両方の側面からお伝えいたします。

赤ちゃんにメリットがいっぱいの母乳栄養

 

初乳と呼ばれる赤ちゃんの最初のおっぱいには神秘的な部分がたくさんあります。母乳相談をする中で印象的だったエピソードは「低体重で生まれた赤ちゃんには、その子にあわせて通常より栄養成分の濃い母乳ができること」でした。これは赤ちゃんに合わせた栄養を、お母さんがその子一人一人にぴったりの母乳を一生懸命作り出しているためと言えます。この様に、母乳は赤ちゃんの食事としてたくさんのメリットがあるのです。

①優れた栄養いっぱいの母乳

母乳は分娩後に、お母さんの乳腺から分泌されるもので、水分と固形分でできています。母乳の栄養素には、糖質、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラルなどが豊富に含まれています。そして母乳は、お母さんの体の状態や、食事内容によって変化します。また最近の研究では、赤ちゃんの方の発達や発育の状態が母乳の出方や成分に関係していることもわかってきました。

②母乳は赤ちゃんの消化にいい

生まれたばかりの赤ちゃんの消化器官は未熟で、固形物を十分に消化できません。そのため、母乳には、消化吸収しやすい乳糖が多く含まれています。また、母乳は赤ちゃんの発育に合わせて成分が変化していくのも特徴の一つです。母乳の最初の「初乳」と呼ばれるものには、タウリン、GABA、ラクトフェリン、ラクトアルブミンなどのたんぱく質を多く含み、赤ちゃんの体を育てていきます。その後にできる「成乳」には、糖や脂肪分が多くなり水っぽい状態に変化し、徐々に消化器官も発達していきます。

②母乳は赤ちゃんに吸われてできる

母乳は、赤ちゃんがおっぱいを吸うことで、お母さんの脳の下垂体からオキシトシンやプロラクチンと呼ばれるホルモンが分泌され、できていく仕組みになっています。これは同時に出産で大きくなった子宮を小さくし、元に戻していく作用にもつながっています。

母乳におすすめ3つの食事

母乳の時期で特に不足しやすい栄養素として、鉄分、カルシウム、葉酸、ビタミンKなどがあげられます。また、エネルギーやたんぱく質なども非妊娠時よりも多めに必要となってきます。これらの栄養素をバランスよく摂るために主食、主菜、副菜の3つからおさえていい母乳作りをしていきましょう。

①主食はごはんでしっかり補給

 

出産で増えた体重を減らそうと、糖質制限をして主食である炭水化物を減らしてしまいがちですが、授乳中はいつもの食事にプラス350kalのエネルギーが必要になります。お母さんのエネルギー源となる主食を極端に減らしてしまうと、母乳の出が悪くなる原因につながります。そのため主食の炭水化物は脂肪が少なく食物繊維の多いごはんや芋類を中心に、しっかりと補っていきましょう。また、ごはんやパン、麺類を玄米や雑穀入りなど色のついた穀類と一緒に摂れば、ミネラルの補給にもなるのでおすすめです。

■授乳期の1日のエネルギーの必要量

非妊娠時が1700kcal+350kcal=2050kcalとなります

上記エネルギーは、18~29歳の女性の身体活動レベル(低い)(Ⅰ)の方
*身体活動レベル低い(Ⅰ)とは「生活の大部分が座位で、静的な活動が中心の場合」を指します。

②主菜は良質なたんぱく質をバランスよく

授乳中は、たんぱく質やビタミン、鉄分、カルシウムなどのミネラルが必要になってきます。特にたんぱく質は、いい母乳を作るのに欠かせない栄養素です。脂の少ない鶏ささみや鮭、あさりなどは、体力の回復に役立つビタミンB12も一緒に補えるのでおすすめです。他にも、母乳を作るのに必要な、ビタミンKの含まれる豆腐などもよいでしょう。たんぱく質は、色々なものを組み合わせて摂るのが、吸収をよくするコツです。献立はバランスよく、肉や魚、卵の他に大豆製品や野菜などの食品と組み合わせて作っていきましょう。

■授乳期の1日のたんぱく質の必要量

非妊娠時が50g+20g=1日70gとなります。

*上の50gは、18~29歳の女性を基準にしています。

③副菜の組み合わせでビタミンK・葉酸・カルシウムを補おう

授乳期間は、妊娠中と同じように各種のビタミンやミネラルが必要となってきます。副菜となるおかずは、カボチャやニンジン、ほうれん草などの緑黄色野菜やきのこ、海草類などからビタミン、ミネラルを補っていきましょう。特に、ビタミンKや葉酸は不足しやすい栄養素です。ビタミンKが多く含まれるブロッコリーや大豆加工食品、葉酸が多く含まれるイチゴやモロヘイヤなどもおすすめです。またカルシウムは、乳製品で補えますが脂質が多くなりやすいのでしらすなどの小魚を副菜に加えるのも一つの方法です。

④水分補給は体を冷やさないスープを

 

母乳の主成分は水分なので、授乳中はこまめに水分補給をしましょう。ただし、甘い飲み物や冷たい飲み物は体を冷やして血流を妨げ、母乳の出を悪くしてしまうので、温かいスープの形で飲むのをおすすめします。野菜がたっぷりのスープなら水分と一緒に野菜に含まれるビタミンやミネラルも補うことができます。また果物などもバランスよく摂れば水分補給とともに、ビタミンCやカリウムの補給にもつながります。

授乳期に控えたい食べ物3点

授乳中は、出産後で体力を消耗しやすいため暴飲暴食になりがちです。ですが、この時期も妊娠期間中と同じで、食生活に気をつけバランスの良い食事をしましょう。特に、動物性の脂や香辛料、添加物やアルコールなど、NGな食べ物もいくつかあるので注意していきましょう。

①脂っぽいものは乳腺炎になりやすい

 

脂質をとりすぎると乳腺炎を引き起こしやすくなります。揚げ物やアイスクリーム、ケーキなどの甘いお菓子は控えめにしましょう。おやつが欲しい時には、脂をおさえた和菓子などから摂るのがおすすめです。また、乳製品は脂質が多い食べ物のためたくさん食べると乳腺がつまりやすくなります。しかし、カルシウムの補給にも乳製品は大切なので1日で300g(牛乳でコップ1杯半)にとどめて、あまり摂りすぎないようにしましょう。

②辛い食事や薬・添加物は母乳に移行する

 

薬は初乳の時期に最も母乳に出やすいものです。病気などで服用している場合は、医師に相談して利用してください。また香辛料も、あまり刺激が強いものだと母乳にも影響が出ます。辛すぎたりする食事は避け一般的な量にとどめておきましょう。味付けの濃い調味料や添加物などは、母乳に影響が出やすい食品です。できるだけ自然な味付けになれるようにしていきましょう。

③アルコールやカフェインはNG

アルコールは、母乳に移行して赤ちゃんの発達に影響を与えると言われているものの一つです。アルコールを飲んだら2時間以上は間隔をあけ、気になる場合は搾乳してから母乳をあげてください。赤ちゃんがお腹を空かせているなど、緊急の場合には、母乳の代わりにミルクを利用するのも一つの方法です。またコーヒーなどに含まれるカフェインも母乳から赤ちゃんに影響があって眠れなくなることもあるようです。カフェインも、ほどほどの量におさえていきましょう。

④母乳を作るお母さんの体を大切に

 

他にも、授乳期には母乳と一緒にそれを作るお母さんの体調管理も大切です。感染症などにかかると母乳をあげられなくなるので、食中毒やウイルス感染などにならないように気をつけていきましょう。そして生ものはできるだけ避け、休める時はゆっくり休んで免疫力を高めていきましょう。

まとめ

産後8~12週間の産褥期(さんじょくき)と呼ばれるこの時期は、普段よりもエネルギーの必要な時です。食事は、脂質をおさえた主食の炭水化物を上手に摂りながら主菜に鉄やカルシウムを含む動物性のたんぱく質と植物性のたんぱく質を組み合わせた献立を作るのが大切です。また副菜には緑黄色野菜や海草、きのこ類、果物などビタミン、ミネラルがたっぷり含まれる食品を利用しましょう。そして体重は自然に戻っていくので慌てずにゆっくり戻すことを心がけてください。

赤ちゃんに度々起こされる授乳で寝不足になりやすいこの時期は、体は休める時に休むのが適切です。気分が落ちて、ホルモンのバランスが変化しやすい時期でもあります。一人でなんでもしようとせず、育児の不安や悩みがある時は、周囲に頼ってみんなで分担しながら子育てや家事をしていきましょう。お母さんの健康が質のいいおっぱいにつながるので無理をしないで、心と体の健康を保ち赤ちゃんと一緒においしい食事を楽しんでください。


writer:松下和代(まつしたかずよ)

大手ミルク会社や保育施設で働いた経験を活かし、現在は「 ナチュラルフードスタイリスト」 として活動中。子どものアレルギーガイドとして「All About」やヴィーガンやマクロビオティック方向けのサイト「VEGEWELL」、栄養ポータルサイト「ライフミール」、書籍ではNHK出版の「趣味どきっ!10~11月号」学研出版の「かんたん10分弁当」西東社の「妊娠中のおいしい食事」など多数のメディアに掲載。子どもの食を中心に、栄養相談や料理教室、地球環境や体に優しい植物性食品を中心としたレシピの考案や食のライフスタイルを提案。休日は、野菜を育て犬と夫とのんびり過ごすのが趣味。


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