2022年11月01日 00:00
妊娠中は体の変化が大きく、妊娠時期に適した寝方を選ばないと、赤ちゃんの健康にも影響します。また、妊娠中はどんどんお腹が大きくなったりホルモンの変化が大きかったりするため、つわりやむくみ、お腹の痛みなど、さまざまな不快症状が現れます。 そこで今回は、妊娠時期に適した寝方や不快症状を軽減できる寝方をわかりやすく解説します。 快適なマタニティライフにつながるよう適した寝方をしましょう。
妊娠中はお母さんと赤ちゃんともに体の変化が大きい期間です。そのため妊娠時期によって適した寝方が変わってきます。
ここでは、妊娠初期、妊娠中期、妊娠後期それぞれのおすすめの寝方を解説します。
また、仰向けは赤ちゃんにとって危険がどうかもわかりやすく説明します。
妊娠初期は、妊娠4ヶ月(15週)までをいいます。この時期は、お腹はまだ目立ちませんが、妊娠に大きく関わるホルモンの影響で、つわりや体が冷えやすくなるなどマイナートラブルが起きやすい時期です。
「うつ伏せで寝ても赤ちゃんに影響しないかな?」と心配される妊婦さんもいますが、安心してください。
妊娠初期はうつ伏せになっても赤ちゃんはつぶれません。
人によって寝やすい姿勢は異なるので、この時期は自分の好きな寝方で大丈夫です。一般的には仰向けと横向きで寝ている人は同じくらいいます。仰向けだと圧が全身に分散されるので体の負担が減るので体が歪みにくくなります。しかし一番大事なのは自分が心地よく感じる寝方です。
特にこの寝方じゃないとダメだ、という姿勢はないので、色々試しながらリラックスできるポーズを探して休みましょう。
妊娠中期は、妊娠5-7ヶ月(16-24週)までをいいます。
つわりで辛い症状がだいぶなくなってきて、20週頃から胎動を感じる人も増え、ますます赤ちゃんへの意識が高まる時期ですね。妊婦さんの体調が妊娠期間でもっとも落ち着くことからいわゆる安定期ともいわれます。
妊娠中期におすすめの寝方は横向きやシムス位です。シムス位とは妊婦さんにもっとも楽な寝方として世界中で知られている姿勢です。かんたんにいうと、うつ伏せと横向きの中間の寝方です。
シムス位のやり方のポイントは下記3点になります。
①左半身を下にした横向きで寝る
②右足を軽く曲げ、前に出す
③抱き枕やクッションを足に挟むとより楽になる
シムス位で体の左側を下にするのは、背中の右側にある下大静脈を圧迫させないためです。下大静脈は最大の静脈で、下半身から集めた血液を心臓に戻す役割があります。
妊娠中期以降、羊水が増えたり子宮や赤ちゃんが大きくなったりすることでお腹はどんどん重くなっていきます。
下大静脈を圧迫するうつ伏せなどで寝たりすると血液の循環が悪くなり、心拍出量の低下による低血圧が起き、ドキドキや気分の悪化、冷や汗や顔面蒼白を引き起こします。
これが仰臥位(ぎょうがい)低血圧症候群です。
お腹が大きくなり、息苦しさを感じるようになったら、仰向けは避けるようにましょう。おすすめの寝方はシムス位ですが、横向きでも大丈夫です。
妊娠後期は、妊娠8ヶ月(25週)以降をいいます。今まで以上に赤ちゃんの大きくなるスピードが早くなり、息苦しさや腰痛、むくみなど体の負担が大きくなり、眠りにくさを感じる人が増えてきます。
出産が近づき赤ちゃんに会えるのが楽しみな一方で、体の負担が続くと妊娠生活が楽しめなくなり、気持ちも沈んでしまいます。そのため少しでも楽な寝方でリラックスした時間を過ごしましょう。この時期は妊娠中期以上にシムス位がおすすめになります。
また、避けた方がよい寝方が仰向けです。妊娠28週以降に仰向けで寝ることで下大静脈が圧迫され、死産のリスクが2.6倍に増加するという論文報告があります。
妊婦健診や分娩予定日を超えた人はN S T(ノンストレステスト)という、赤ちゃんの心音と陣痛の程度を測定するモニターを30分以上つける検査をする回数が増えます。分娩当日は生まれるまでずっと装着したままのことも多いです。
検査中の寝方ですが、うまく赤ちゃんの心拍が拾えない場合、モニターがずれにくいように仰向けで寝るよう助産師さんに指示されることもあります。
しかし、ただ仰向けになるだけでは妊娠中期で説明した仰臥位低血圧症候群の影響で気分が悪くなるため、リクライニングできるベッドなら頭側を高くしたり、枕で調節したり、辛ければ横向きやシムス位を取ることも可能です。辛くなったら寝方を変えてもらえる、ということを覚えておくと便利ですよ。
妊娠初期は主にホルモンの影響、妊娠中期以降は赤ちゃんの成長や妊婦さんの体重増加が原因で腰痛やお腹の痛みなど色々な不快症状が出てきます。ここでは、症状に合わせたおすすめの寝方を解説します。
また、妊娠後期で逆子になった場合の対処方法もわかりやすく説明します。
つわりは、妊娠によるホルモンの急激な変化が原因だと考えられています。妊娠5週から始まることが多く、妊娠8-10週がピークで、長くとも妊娠15-16週には落ち着くといわれています。つわりで吐き気がして辛い時におすすめの寝方が「横向き」です。
人間の臓器は左右非対称なため、横向きでも左右どちらを下にするかで内臓にかかる負担が違ってきます。
右側が下の場合:胃や腸の出口が右側にあり、胃の形が体の右側に沿ってカーブしていることからも、食べ物の移動がスムーズで消化に良い
左側が下の場合:リンパの流れがよく、不要な老廃物の排出がスムーズなため消化器系の臓器の負担が少ない。逆流性食道炎も起こりにくい
上記のように、左右どちらもメリットがあります。
妊娠初期では、左右はこだわらずに寝やすい向きでいいですが、お腹が大きくなる妊娠中以降では血管が圧迫されない左側を下にした横向きがおすすめです。
また、横向きのときも枕で頭を高くするとより楽な姿勢になります。
妊娠中のお腹の痛みは、子宮が大きくなるにつれて起こる生理的な痛みと、切迫早産や切迫流産につながる病的な痛みがあります。普段よりお腹の張りの頻度が多いときやお腹が硬い状態が続く場合は病院に連絡しましょう。お腹が痛いときや切迫早産や切迫流産で自宅安静をいわれたときに、「この寝方なら絶対大丈夫」という理想的な寝方は残念ながらありません。
むしろ妊娠初期では寝方にこだわらず自分がリラックスできる寝方がいいでしょう。
妊娠中期以降、特に妊娠28週以降では長時間の仰向けは避けた方がいいです。仰向けで寝ると、下大静脈が圧迫されて気分が悪くなりやすいため、左半身を下にした横向きやシムス位がおすすめです。
赤ちゃんは骨盤を通って産まれてきます。少しでも赤ちゃんが通りやすいように、体は腰回りの靱帯をゆるめ、妊娠中から骨盤が徐々に広がっていきます。その影響で、妊娠初期から腰が痛みやすくなります。
また、妊娠中期以降、お腹が大きくなるにつれ重心が前に傾きます。体はバランスを取るため後ろに反った姿勢になりやすく、その影響で背中や腰を痛める原因になるのです。
さらに妊娠後期以降は妊婦さん自身の体重の負荷でより背中・腰の負担が増えます。背中や腰が痛いときのおすすめの寝方は妊娠時期によって変わります。妊娠初期では、体の圧が分散される仰向けがおすすめです。
このとき、クッションや枕の上に足を置き、足を高い位置にするとより背中や腰の負担が減ります。また、膝の下にもクッションを入れて腰を湾曲させると、本来の腰の形が保てるので楽になります。
背中や腰が痛いなど、妊娠中期以降でお腹が大きくなり仰向けになりにくいときは横向きやシムス位がおすすめの寝方です。起き上がるのが辛いときには、柔らかいマットレスは腰に負担をかけてしまいます。そのため身体が沈みすぎない硬いマットレスや布団がおすすめです。
妊娠初期は、急激なホルモンの影響で体調に変化が起きやすい時期です。女性ホルモンの一つである黄体ホルモン(プロゲステロン)が増加すると消化器の筋肉が緩み消化管の運動能力が低下することが知られています。腸の運動機能が悪いと食べ物が消化できず胃もたれが起きたり、大きくなった子宮が胃を圧迫することで胃が苦しくなったりするのです。
胃が苦しいときのおすすめの寝方は横向きやシムス位です。ただし、右を下にする場合は、下大静脈が圧迫され気分が悪くなることもあるので、気になる場合は左下がおすすめです。横向きの場合は左右どちらを下にするかは気にせず好きな向きで大丈夫です。
また、食べた後は消化器以外にエネルギーが使われることを防ぐために、すぐに横になって休むことも大切です。
妊娠中は体の水分量が増え、血流が増加します。大きくなった子宮は太もものつけ根にある太い血管を圧迫するため、下半身から心臓に戻る血液の流れが滞って、むくみやすい状態になるのがむくみのメカニズムです。足がむくむと見た目の問題だけではなく、歩きにくかったり体がだるかったりの他にも、疲れが取りにくくなる場合があります。
足のむくみをチェックする方法として、足のすねを指で5秒押して凹ませてください。凹みが戻らず、跡が残るならむくみがあると判断します。足のむくみを解消するには適度な水分補給と運動やマッサージと心地よい寝方も重要です。足は体の一番下にあるため、重力で水分がたまりやすくむくみやすい場所です。
そのため寝るときは枕やクッションの上に足を置き、足を10cm程度高くして心臓の高さより上になるように調整しましょう。
また、体の右側にある大静脈という心臓に向かう血管を圧迫して血行を悪くしないようにするため、横向きで寝るときは左側を下にして寝ることがおすすめです。
お産のとき、赤ちゃんの頭は下側(頭位)にあり、回転しながら骨盤を通って生まれてきます。赤ちゃんのお尻が下側にあると、へそが圧迫されやすかったり骨盤が通りにくかったりすることが原因で新生児仮死などリスクがあります。そのため逆子の場合は帝王切開を選択する病院が多いです。
妊娠中は逆子でもお母さん自身やお産前の赤ちゃんには特に悪い影響はありません。しかし赤ちゃんが大きくなると、子宮の中で移動するスペースが狭くなり頭位に戻りにくくなるため、妊娠30週を目安に逆子体操を指導されます。
逆子体操は赤ちゃんが自分で回転できるように促し頭位に戻す寝方で下記の2つの方法があります。
胸膝法は、お尻を上げた状態で四つん這いになり、骨盤の位置より頭を高くする方法です。
やり方のポイントは4つです。
(1)胸と膝を床につけ、腰をできるだけ高くした四つん這いになる
(2)両手をまっすぐ前に伸ばす
(3)数分からはじめ、慣れたら15分ほど姿勢をキープする
(4)終わったら横向きで寝る
ブリッジ法は、仰向けになってブリッジのようにお腹を持ち上げる方法です。
やり方のポイントは4つです。
(1)仰向けに寝る
(2)クッションやタオルを腰の下に入れ骨盤を持ち上げる
(3) 数分からはじめ、慣れたら15分ほど姿勢をキープする
(4)終わったら横向きで寝る
また、胸膝法でもブリッジ法でも横向きで寝る際、赤ちゃんが回転しやすいように、赤ちゃんの背中が上になるように寝るのが重要ポイントです。
そのため、妊婦健診で逆子といわれたときは、赤ちゃんの背中が自分のお腹の左側にある場合(第一胎向)は右側を下に、赤ちゃんの背中が自分のお腹の右側にある場合(第二胎向)は左側を下にして寝ましょう。
胸膝法やブリッジ法を妊婦健診で指導すると、体勢が辛いと言われる方が多いです。そのため、お腹の張りがある方や切迫早産のリスクのある方は、無理をせず赤ちゃんの背中の位置を意識した寝方だけ行いましょう。
体の圧を分散させ寝方をサポートしてくれる妊娠中の必須アイテムが抱き枕です。ここでは抱き枕を使う時期やおすすめの選び方を解説します。抱き枕があるとより良い寝方につながりますが、場所も取るため、後悔のないものを選びたいですね。
抱き枕を使わない場合は大きなバスタオルを丸めたり、クッションや普段使っている枕で代用したりすることもできます。
妊娠中に抱き枕を買うきっかけとして、つわりの時期とお腹が大きくなり寝づらさを感じた時期の2つのタイミングが多いです。抱き枕を使うことで、寝るときの体の負担が減り、よりリラックスできます。
いつ買うかタイミングが気になる方は、つわりのピークは妊娠8-10週なため、妊娠がわかった早めの段階で用意しておけると安心ですね。
抱き枕の選び方のポイントは形、素材、洗いやすさの3つのポイントがあります。
一番シンプルな形はI字型です。まっすぐな形なため抱き枕はもちろん、横向きになるときに腰の隙間に挟み込むとより腰痛が緩和できます。カーブしたC字型だと足に挟んで抱きやすいのはもちろん、産後も授乳クッションとして使えるので長く活用できて便利です。
素材では、ふわふわした肌触りのポリエステルや、もちもちした独特なマイクロビーズ、適度に沈み込む低反発ウレタンなど色々あります。好きな肌触りは人により違うため、できれば実店舗で試してみたいですね。
眠っている間に人は350mlの汗をかくといわれています。丸洗いできる抱き枕なら清潔が保てて安心です。抱き枕を選ぶ際は形、素材、洗いやすさの3つを比較しながらコストパフォーマンスの良いものを選びましょう
妊娠中の時期や症状に合わせたおすすめの寝方を解説しました。
妊娠初期は自分の好きな姿勢、妊娠中期以降は左側を下にした横向きやシムス位がおすすめですが、症状に合わせて適宜変えてみてください。また、抱き枕を使うとより快適な寝方につながります。自分に適した寝方で快適な妊娠生活を送ってください。
ライター名:なっち
紹介文:クリニックや大学病院で助産師として7年間勤務し、妊婦健診、分娩介助、妊産婦指導に携わる。現在は大学院で先天性疾患に関する研究中の二児の母。
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