2021年09月15日 00:00
おっぱいマッサージは、母乳育児をスムーズに行えるようにするためのさまざまな役割があります。妊娠中と出産後のいつ行うかで得られる効果に違いがあり、スムーズな母乳育児や、乳腺によるトラブルを遠ざけてくれるのです。赤ちゃんとママの健康のため、身体に合ったおっぱいのケアのやり方やおっぱいマッサージの注意点などを説明していきます。
おっぱいは母乳が作られる乳腺組織と脂肪組織で構成されており、乳腺組織には母乳の通り道となる乳管と、乳管につながる乳腺などから成り立ちます。乳腺の先端にはブドウの房のような乳腺房が存在しており、ホルモンの影響により、乳腺房は妊娠初期から中期にかけて数が増え、次第に大きくなっていきます。
妊娠中におっぱいが大きくなるのはこの乳腺組織の発達によるものです。妊娠22週ごろまでに一定の大きさになると言われていますが、妊娠後期に著しく発育する場合もあります。乳腺組織が発育する段階は母乳を作る前の状態であり母乳はまだ作られていません。
それでは、母乳はどのように分泌するのでしょうか?母乳の分泌には「オキシトシン」と「プロラクチン」というホルモンが関係しています。「プロラクチン」は母乳を生産し、「オキシトシン」は母乳を排出させる(射乳反射)役割があり、赤ちゃんがおっぱいを吸う(吸啜する)たびに分泌量が増える仕組みです。
プロラクチンは妊娠中から分泌し、出産直後に分泌量がピークとなり、緩やかに減っていくのですが赤ちゃんがおっぱいを吸うこと乳腺が空の状態になったときに「もっと母乳が必要そうだ。もっと生成しなくては!」と働きます。オキシトシンは赤ちゃんが吸啜することで分泌量が維持され、母乳を排出するようになっているのです。
もし母乳が乳腺の中にたまっている時間が長いと、母乳生産を抑える物質(FLI)が分泌されるため、母乳が作られなくなってしまいます。つまり、母乳が出るようにするためには、頻回の授乳で乳房を空にするということが大事です。
母乳が作られるようになるためには赤ちゃんの吸啜が重要なポイントになりますが、おっぱいマッサージも母乳を作る乳腺組織にとって良い結果をもたらしてくれます。おっぱいマッサージが具体的にどのような効果があるのでしょうか?
おっぱいマッサージを行うことで乳管が刺激され詰まりが改善されると言われています。乳管が詰まる原因は、「乳垢」という母乳のカスや、乳頭にできた水疱や白斑などのトラブルです。特に出産後、赤ちゃんが上手く母乳を飲みきれなかったり、母乳の分泌が多すぎたりすると、母乳の流れがとどこおり乳腺や乳管が詰まりやすくなります。
おっぱいマッサージは乳頭を圧迫するので母乳が排出されるようになり、詰まった乳腺の流れが改善されやすくなるのです。
おっぱいマッサージは乳管を圧迫し、乳管の開通を促す効果があります。乳管は乳頭部の表面に観察され約4~18本存在すると言われ※1、これらの乳管は1つの主乳管に連結されています。乳管では母乳を溜める機能がなく、簡単につぶれ閉塞しやすいのです。おっぱいマッサージは、母乳の流れを促し乳管が開く役割を果たします。
おっぱいをマッサージすると、乳輪部から乳頭部が柔らかくなり、赤ちゃんがおっぱいを吸いやすくなります。赤ちゃんは、舌でしごきだして母乳を飲むため、乳頭や乳輪部が柔らかく乳輪部の伸びが良い状態が好きです。乳頭や乳輪部が固めだと、赤ちゃんが飲みにくいという点以外にも頻回の授乳による亀裂や痛みなどトラブルの原因にもなってしまいます。
また、一般的に産後2~3日目は乳房内のリンパ液と血液が乳腺組織のまわりに増加し、乳房の張りや痛みなどがみられ、乳頭も固くなりがちです。この場合には、おっぱいマッサージを行い乳頭をほぐしてあげる必要があります。妊娠前からおっぱいマッサージを習得しておくと産後にも使えるため、一石二鳥です。
おっぱいマッサージを行う時期は乳房と乳頭のどちらの部位をマッサージするかで異なります。ここでは目安を記載しますが、かかりつけの産婦人科でおっぱいマッサージを行ってもいいのか確認すると安心でしょう。
妊娠中期は14~28週未満の時期と定義されていますが※2、妊娠16週ごろからおっぱいマッサージを行うように指導する施設が多いようです。妊娠初期は、早期の乳房への刺激により流産などの危険性があるため、すすめることはほとんどありません。
おっぱいマッサージは乳頭・乳輪・乳房を刺激します。乳頭への過度な刺激は子宮の張りの原因となるため注意が必要です。ちなみに妊娠36週以降は、積極的におっぱいマッサージを行うことをすすめられ、本格的に母乳育児の準備を行えます。
また、母乳育児を推進する「赤ちゃんに優しい病院(baby friendly hospital/BFH)」での乳房・乳頭ケアの実態調査によると、乳房全体のマッサージを行っている施設は、全体の約10%ほどであり積極的に行ってはいませんでした。乳頭ケアは約90%であり、ほぼ行っているようです。※5
おっぱいマッサージは出産後、いつ行っても問題ありません。乳房が張ってくると、乳頭部と乳輪部も固くなり赤ちゃんが吸いつきにくい場合があります。そのため、おっぱいマッサージを授乳前に行い乳頭・乳輪部をほぐしてあげましょう。授乳前以外にも、出産後乳管の開通がみられていないときや搾乳を行うときにもおっぱいマッサージは有効です。
おっぱいマッサージで特に乳頭を刺激する場合は、オキシトシンが分泌され、子宮が収縮しやすくなります。妊娠中からもおっぱいマッサージは行えるのですが、マッサージ後お腹が張る場合は、中断しましょう。また、切迫早産と診断された場合は、子宮収縮を誘発しないためにおっぱいマッサージを控える必要があります。マッサージを行って痛みを感じる場合なども控えたほうが無難です。
おっぱいマッサージはおっぱい全体のマッサージと乳頭・乳輪部のマッサージがあります。技術的にはシンプルでやりやすいです。また、実際に自分自身でおっぱいを触ることで母乳育児への意欲も高まります。具体的なおっぱいマッサージの方法を学び、活用していきましょう。
おっぱい全体のマッサージは乳房を縦・横に動かします。ママ自身がやりやすいように片方ずつ行っても良いし同時に行っても問題ありません。同時に両方の乳房のマッサージを行う際は、右側は右手で、左側は左手で支えると行いやすいです。おっぱいの下の方(基底部)から全体を支えるようにし、縦に5回、横に5回を2、3セット行うとよいでしょう。
横に動かすときにはおっぱいを中心に寄せるように行っても大丈夫です。出産後、母乳が作られて緊満があるときには、おっぱいの基底部の血流がとどこおりやすくなるので全体のマッサージを行い、循環を促してあげます。
乳頭・乳輪部のマッサージはいわゆる乳管開通マッサージとなります。
手順は
・乳房全体を片方の手で支える
・乳頭部を親指と人差し指と中指の3本で圧迫する
・乳頭部・乳輪部を指の腹でほぐすようにもむ
・乳頭部を引っ張りすぎずに乳頭と同じ縦方向に向かってしごく
圧迫する際には爪を立てないように指の腹を使いましょう。1回圧迫する時間は3秒ほど。爪先が白くなる程度の強さで圧迫します。同じ場所ばかりではなく、さまざまな角度から刺激を与えていきましょう。マッサージは5~10分ほど行えば十分です。必ず毎日行わなければならないケアではないので、妊娠中は1週間に1~2回でもかまいません。妊娠中は疲れやすかったりママの体調も変化が起きやすかったりします。無理せずに、ママの体調に合わせて行うことが大切です。
赤ちゃんがおっぱいを上手に吸うためには乳輪部の伸び具合が良いことも条件のひとつです。乳頭の伸展性を促すマッサージとして、両手の人差し指を乳首の横に置いて、乳輪部の皮膚が軽く伸びるように外側にひっぱります(ホフマン法)。上下左右、いろんな角度から行っていきましょう。
乳頭や乳輪の柔らかさが耳たぶほどの柔らかさであれば、妊娠中積極的に行わなくても赤ちゃんは上手に吸えることが多いです。硬めの場合は、乳頭・乳輪部のマッサージを続けて行い、少しずつほぐしましょう。
妊娠中にも母乳は作られるため、たまに乳頭の先端に乳垢や母乳が固まった膜のようなものがみられる場合があります。自然にはがれる場合は良いのですが、放置しておくと亀裂の原因になることもあります。乳垢は、コールドクリームを塗ったり、オリーブオイルなどをひたしたコットンを数分あてたりして、綿棒やティッシュペーパーを使用して除去すると良いでしょう。コットンを使わなくても、入浴したついでに、皮膚がふやけた状態で行うのも良い方法です。
また妊娠中、きついブラジャーなどサイズが合わない下着で乳房を締め付けてしまうと、乳腺を圧迫してしまいます。そのため、下着は乳房の変化に合わせて着用することをおすすめします。下着の素材をコットンにするなど皮膚に優しいものを選ぶと皮膚のトラブルを避けることができます。しかし、乳房の変化に合わせて下着を購入するとなると現実的に難しい場合もあるため、コットン素材でノンワイヤーの下着やブラトップなどで産後にも使えるものを選ぶとよいでしょう。
おっぱいマッサージをは良い効果ももたらしてくれますが、状況によっては悪影響になることもあります。トラブルが起こることなくおっぱいマッサージを行えるように注意点も覚えておきましょう。
乳房の発育は個人差がありますが、妊娠前に比べると著しく増大します。ときには張りと共に痛みを感じることがあるかもしれません。痛みを伴うと苦痛と同時にストレスを感じ、母乳育児のために行うはずのおっぱいマッサージが逆効果となってしまっては本末転倒です。母乳分泌に関係するオキシトシンは、ストレスを感じると母乳の分泌が悪くなることもあるため、痛みなどの苦痛があるときはマッサージを避けましょう。
おっぱいマッサージを始めると意外と夢中になってしまうこともあります。自分で行うときは長くても20分ほどにしておきましょう。妊娠中は5~10分ほどで十分です。マッサージを行う際はどうしても首を曲げた状態を保つので悪い姿勢がとなり、肩の血液循環も悪くなります。疲労など体の負担になるため長時間行わないようにしましょう。
また母乳の分泌が良好で乳房の緊満が強すぎる場合なども長時間のマッサージは控えてください。母乳の分泌を増やしたいママにとっては、嬉しい効果をもたらしてくれますが、母乳の分泌が良く、乳房が張りすぎているママにとっては、さらに乳房が張ったり分泌が増えすぎたりして状況を悪化させてしまうこともあります。そのため、分泌が過多傾向にある場合は長時間のマッサージは避けるとよいでしょう。
母乳の分泌を促したい気持ちが強いと夢中になって力が入ってしまうことがあるかもしれません。しかし力を入れすぎてしまうと痛みを伴い、乳腺への損傷や皮膚への強い刺激となりトラブルが生じることがあります。
例えば乳腺炎を引き起こしおっぱいマッサージが必要になったとき、力を入れすぎたために痛みが強くなったりしこりができたりなど、症状が改善されないことがあるのです。このようなトラブル回避のために、痛みを感じる強さや皮膚に赤いあとが残る強さにならないように気をつけましょう。
特に妊娠期のおっぱいマッサージは、医師に確認してから行うようにしましょう。乳頭刺激により子宮収縮を誘発してしまう可能性があるからです。一般的に妊娠初期は流産などのリスクもあるため、おっぱいマッサージを推奨することはなく、妊娠中期からすすられていますが、切迫早産などと診断された場合などには注意が必要です。
おっぱいマッサージは赤ちゃんが吸いやすいおっぱいを作るためのケアですが、マッサージだけでは改善できないこともあります。乳頭の形には、刺激によって乳頭が突出する仮性陥没乳頭、刺激をすると乳頭が乳輪に埋まっていく真性陥没乳頭、乳輪部と乳頭がほぼ平面に並んでいる扁平乳頭があります。
仮性陥没乳頭の場合は、授乳前にマッサージを行うことで乳頭が突出するので赤ちゃんが乳頭をとらえ吸い付くことが可能になるでしょう。しかし、陥没乳頭や扁平乳頭の場合、赤ちゃんが乳頭をとらえることが難しい可能性が高いです。また、乳房のケアの有効性は実証されていないため、おっぱいケアの工夫が必要かもしれません。
また、妊娠中と出産後では乳頭・乳房の状態が変わります。母乳分泌が促進されると乳房の緊満が出てきたり痛みが出たりして自分だけで解決できないこともあるでしょう。トラブルの原因とならないように、直接専門家に乳房の状態をチェックしてもらい、ケアの方法について相談とママのおっぱいに合ったマッサージの仕方が見つかるかもしれません。
おっぱいマッサージは乳管の詰まりを改善し開通させ、また赤ちゃんがおっぱいを吸いやすくするためのケアであり、妊娠中から出産後まで行えることがわかりました。母乳分泌を促すために助けになりますが、母乳の分泌が良すぎる場合は悪影響にもなるので、状態に合わせて行っていくことが大切です。
また妊娠中のマッサージは切迫早産の場合は避けなければなりません。母乳育児を推進している病院ではほぼおっぱいマッサージを行いますが、ママが負担にならない程度に注意点を守りながら取り組んでいくのがよいでしょう。
参考文献
※1 水野克己 水野紀子著、母乳育児支援講座 第2版、2017年、南山堂
※2 厚生労働省 妊婦・授乳婦 添付資料1
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000114401.pdf
※3 ペリネイタルケア2011.Vol30、”陥没乳頭は妊娠中から乳頭のケアをしたほうがいの?”
※4 ペリネイタルケア2017.Vol36、”陥没乳頭・扁平乳頭の授乳”
※5 ペリネイタルケア2019. Vol38、“日本のBFH施設における妊娠中の乳房・乳頭ケアの実態調査”
※6 森恵美著 系統看護学講座、専門分野Ⅱ、母性看護学各論、母性看護学② 医学書院、2020年
※7 ペリネイタルケア2011. Vol30、“母乳育児のための入院中の乳房ケアができる!”
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